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東京地方裁判所 平成2年(ワ)322号 判決

甲事件原告・乙事件反訴被告(以下単に「原告」という。)

久保田操

右訴訟代理人弁護士

松本義信

甲事件被告・乙事件反訴原告(以下単に「被告」という。)

有限会社大谷ハウジング

右代表者代表取締役

大谷信義

甲事件被告(以下単に「被告」という。)

大谷信義

右両名訴訟代理人弁士

亀岡孝正

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金九〇万円及びこれに対する昭和六三年一〇月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は、被告有限会社大谷ハウジングに対し、金四九五万二九一〇円及びこれに対する昭和六二年五月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の本訴甲事件請求及び被告有限会社大谷ハウジングのその余の反訴乙事件請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は本訴甲事件反訴乙事件を通じてこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(本訴甲事件)

一  請求の趣旨

1 被告らは、原告に対し、各自金一六〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一〇月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴乙事件)

一  請求の趣旨

1 原告は、被告有限会社大谷ハウジングに対し、金六七一万九〇〇〇円及びこれに対する昭和六二年五月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告有限会社大谷ハウジングの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告有限会社大谷ハウジングの請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告有限会社大谷ハウジングの負担とする。

第二  当事者の主張

(本訴甲事件)

一  請求原因

1 請負契約の成立

原告は、昭和六一年一〇月六日、被告有限会社大谷ハウジング(以下「被告会社」という。)との間で、原告を注文者、被告会社を請負人として、原告の肩書住所地所在の原告所有の土地(以下「本件土地」という。)上の原告の自宅である別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の建築工事に関し、次の約定で請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。

(一) 工期

(1) 着工 昭和六一年一〇月六日

(2) 完成 昭和六二年二月末日

(二) 請負代金 金一六〇〇万円

(三) 支払方法

(1) 契約成立時 金八〇〇万円

(2) 建前時 金四〇〇万円

(3) 完成引渡時 金四〇〇万円

2 本件建物の引渡

被告会社は、昭和六二年三月二七日頃、本件建物を原告に引渡した。

3 本件建物の瑕疵

本件建物には、本件建築工事の施工による次のような瑕疵が存在する。

(一) 車庫の欠陥

原告は、被告会社に対し、本件建物に附属してその地下に原告所有の普通乗用自動車コロナマークⅡ(以下「本件乗用車」という。)が入出庫可能な車庫を造ってほしいということで発注したものであるが、実際に被告会社が造った車庫(以下「本件車庫」という。)は、その構造上本件乗用車が入出庫することができない。

(二) 一階の採光の欠陥

本件車庫のシャッターを締めると、一階の明りとりをふさいでしまい、一階は昼間でも真っ暗になってしまう。

4 被告会社の債務不履行(不完全履行)

(一) 建物全体の建築面積の不足

本件請負契約では、建築面積が一、二階で合計78.67平方メートル(23.84坪)とする約定であったが、実際に出来上がった建物の建築面積は、一、二階で合計68.55平方メートル(20.77坪)であった。

(二) 設計図の不交付

本件建物の設計図は、原告の度重なる請求にもかかわらず、作成すらされず、その結果原告側では本件建物内の配線配管の仕様が一切不明である。

5 被告らの責任

(一) 被告会社

(1) 契約解除と約款上の損害賠償責任

原告は、本件請負契約書添付の民間建設工事標準請負契約約款(甲)第二五条第二項二号及び四号に基づき、「工期内又は期限後相当期間内に被告会社が工事を完成する見込がない」、「契約違反によって契約の目的を達することができない」ことを理由に、昭和六三年七月六日到達の書面で、被告会社に対し、本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。

したがって、被告会社は、右約款に基づき、前記本件建物の瑕疵及び被告会社の債務不履行により原告の蒙った損害を賠償すべき義務がある。

(2) 法定責任に基づく損害賠償責任(選択的主張)

仮に(1)項の責任が認められないとしても、被告会社には以下の損害賠償責任がある。

(一) 瑕疵担保責任

本件請負契約に基づく本件建物の施工に関して前記瑕疵が存在するのであるから、被告会社は、原告に対し、民法六三四条二項に基づく瑕疵の修補に代る損害賠償の責任がある。

(二) 債務不履行責任

本件請負契約に基づく本件建物の施工に関して前記瑕疵及び債務不履行が存在するのであるから、被告会社は、本件請負契約の履行につき不完全履行があり、原告に対し、民法四一五条に基づき、原告の蒙った損害を賠償すべき責任がある。

(三) 不法行為責任

被告大谷信義(以下「被告大谷」という。)は、被告会社の代表取締役であり、本件建物の建築工事の施工を担当した。被告大谷は、建築業者として本件乗用車が入出庫可能な車庫の完成を保証したのであるから、そのような車庫を造るべき義務があるのに、これを怠り、右入出庫が不可能な本件車庫を施工した。被告会社は、被告大谷が被告会社の事業の執行としてなした右不法行為につき、使用者として民法七一五条により又は代表取締役の行為として民法四四条一項により原告の蒙った損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告大谷

(1) 保証責任

被告大谷は、本件請負契約締結の日に、原告との間において、本件請負契約に基づき被告会社が原告に対し負担する債務を保証する旨の契約(以下「本件保証契約」という。)を締結したのであるから、保証責任に基づき、原告の蒙った損害を賠償すべき責任がある。

(2) 取締役の第三者に対する責任(仮定主張)

被告大谷は、被告会社の代表取締役であり、その職務を行なうについて、悪意又は重大な過失により、前記のとおり原告に損害を蒙らせたのであるから、有限会社法三〇条の三第一項に基づき、右損害を賠償すべき責任がある。

6 原告の損害

(一) 修補の内容

本件建物の欠陥を除去し、本件乗用車が入出庫可能な車庫を造るためには、一旦本件建物全体を取壊し、再度建て替えるほかに相当な修補方法はなく、これに相当する損害が原告に生じているのである。

(二) 損害額

(1) 本件建物の建て替え費用 一五〇八万四八三六円

本件建物とほぼ同じ床面積・構造・仕様・品質の建物を再度建築するための費用は、本件建物の取壊工事費(撤去費用を含む。)五九万六〇二六円及び新規工事建築費一四四八万八八一〇円の合計一五〇八万四八三六円である。

(2) 慰藉料 九一万五一六四円

原告は、念願の自宅を新築したものの、本件建物に入居直後から本件建物の欠陥に悩ませられたのであり、原告の蒙った精神的苦痛の慰藉料としては、九一万五一六四円が相当である。

7 よって、原告は、被告会社に対し、約款上の損害賠償責任・瑕疵担保責任・債務不履行責任・不法行為責任のいずれかに基づき、被告大谷に対し、保証責任・取締役の第三者に対する責任のいずれかに基づき、連帯して金一六〇〇万円及びこれに対する本訴甲事件訴状送達の日の翌日である昭和六三年一〇月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

(認否)

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の事実のうち、本件車庫の構造上本件乗用車の入出庫が不可能であること、本件車庫のシャッターを締めると、本件建物一階の明りとりをふさいでしまうことは認める。

4  請求原因4の事実のうち、本件建物全体の建築面積が本件請負契約上の建築面積に不足していること、被告会社から原告に本件建物の設計図を交付していないことは認める。

5  請求原因5の事実のうち、原告主張の契約解除の意思表示のなされたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

6  請求原因6の事実は否認する。

(主張)

1  瑕疵担保責任の点について

仮に本件建物に原告主張の瑕疵があったとしても、それは発注者たる原告の指示に基づくものであり、被告会社が瑕疵担保責任を問われることはない(民法六三六条但書)。

(一) 本件車庫の瑕疵について

そもそも本件土地上に建物を建築する場合、建築基準法上許容される延床面積は一四坪弱のものにすぎない。ところが、原告は、家族構成や家相の見地からこれを遙かに超える建物の建築を希望したため、被告会社もやむなくこれに応じたのである。

本件車庫については、契約当日になって原告から設置の希望が出され、急遽契約内容にもりこまれたものである。

そこで、被告会社は、後日本件車庫部分の図面を書加えた建物平面図を作成し、これを原告に交付した。その際、被告会社の代表者である被告大谷は、原告に対し、前面道路が狭小なため本件乗用車の入出庫が困難かもしれないと伝え、本件車庫の位置の変更を提案した。しかし、原告は、家族構成や家相上の理由から、間取の変更は不可能なので、なんとかこの図面どおりで車庫を設置してほしいと強く要望し、被告会社は原告の要望どおり施工することになったのである。

ところが、現実に本件車庫が完成してみると、やはり本件乗用車の入出庫が困難であることが判明したため、被告会社としては、東側のブロック塀を一部撤去するか、洗濯場の北側空き地部分へ本件車庫を移設してはどうかと提案したが、結局これは原告の容れるところとはならなかった。

しかし、被告会社としては、現在でも右のような方法であるのなら、本件建物の修補工事に応じる用意がある。

(二) 一階の採光不良の瑕疵について

当初の約束では、本件車庫にはシャッターをつけないということであったが、昭和六三年四月上旬頃になって、原告から、被告会社に対し、不用心なのでシャッターを設置してほしいとの申入れがあった。そこで、被告会社としては、シャッターを設置すると暗くなり、一階の採光が不良になるので、パイプシャッターの設置を勧めたが、原告は、それでは埃が入ってしまう、暗くなってもよいから普通のスチールシャッターにしてほしいと要請した。

2  債務不履行(不完全履行)の点について

以下の事情からすると、被告会社に原告主張の債務不履行(不完全履行)はない。

(一) 建物全体の建築面積の不足について

原告は、この点を了解している。すなわち、本件請負契約締結後杉並区との道路境界確定作業を実施したり、また隣家との境界確定作業を実施したところ、本件土地の敷地境のブロック塀の中心が境界であるとの原告の当初の説明とは異なり、実際には右ブロック塀の内側が境界であることが判明したことなどから、当初の建築面積を確保することが困難であることが明らかとなったので、被告会社としては、原告の了解を得て各部屋の寸法を縮小し、その結果完成した本件建物の建築面積が原告主張のとおりになったのである。

(二) 設計図の不交付について

本件建物の裏側の鉄骨ベランダ(追加工事部分)を造る際に、初めて原告から被告会社に対し、図面の提示の申入れがあったのであり、それ以前には、被告会社は、各工事の都度、関係図面により説明しながら原告の了解をとり、右図面のコピーも原告に交付している。

3  損害の点について

仮に、本件車庫の構造上本件乗用車の入出庫が不可能であることが本件建物の瑕疵にあたるとしても、原告は、すでに本件建物の引渡を受けて現にこれに居住しており、本件建物の建て替え費用を損害として被告らに対し損害賠償請求をすることは、民法六三五条但書の法意に照しても許されない。

三 右主張に対する原告の認否

被告らの主張事実はいずれも否認し、主張は争う。

四 仮定抗弁(瑕疵担保責任について)

本件請負契約書添付の民間建設工事標準請負契約約款(甲)第二〇条によれば、瑕疵担保責任の追求は、建物の引渡時点から一年内になされなければならない旨規定されている。

しかるに、本件で被告会社は昭和六二年三月下旬に原告に建物完成引渡証明書を交付し、原告もその頃本件建物に引越しており、その時点で本件建物の引渡は完了している。

したがって、本件で原告が被告会社に対し瑕疵担保責任を追求することは許されない。

五 仮定抗弁に対する認否

否認する。

(反訴乙事件)

一  請求原因

1 請負契約の成立

本訴甲事件請求原因1に同じ。

2 追加工事の発注と本件建物の完成・引渡

被告会社は、原告から、本件建物の引渡時に代金の支払を受けるとの約定のもとに、昭和六二年二月一〇日頃以降本件請負契約に付随して原告から次の追加工事の発注を受け、遅くとも同年四月中旬頃までにこれを完成し引渡した。

(一) 昭和六二年二月一〇日頃受注した工事内容

(1) ベランダ工事一式

金五一万八〇〇〇円

(2) 屋根・天井・納戸工事一式(規格ユニット階段を含む。)

金五四万六〇〇〇円

(3) 塀及び門扉工事一式

金四四万六〇〇〇円

(4) 北側ベランダ工事一式

金五〇万円

(5) 北側土間コンクリート工事一式

金一二万円

(6) 二階出窓サッシュ工事一式

金二四万八〇〇〇円

(7) 北側入口ドア工事一式

金一一万六〇〇〇円

(8) エアコン工事一式

金一二〇万円

(二) 昭和六二年二月一〇日頃以降に受注した以下の追加工事

合計金一〇二万五〇〇〇円

(1) スチール物置設置

(2) 庭の造成一式

(3) エアコンカバー

(4) 納戸内装工事一式

(5) 車庫シャッター

(6) ブラインド

(7) ファン

3 残工事代金

原告は、被告会社に対し、本件請負契約の本工事代金一六〇〇万円については、昭和六一年一〇月八日に八〇〇万円、昭和六二年一月二六日頃に四〇〇万円、同年三月末日頃に二〇〇万円の合計一四〇〇万円を支払ったのみで、二〇〇万円が未払となっており、追加工事代金四七一万九〇〇〇円については全部未払となっている。

4 よって、被告会社は、本件請負契約に基づき、原告に対し、右残工事代合計金六七一万九〇〇〇円及びこれに対する履行期後である昭和六二年五月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実は否認する。原告は、昭和六一年一二月一五日、被告会社との間において、本件請負契約の追加工事を目的とする請負契約を締結したが、その工事内容はベランダ、車庫のシャッター、エアコン四基、塀及び門扉の工事であり、その工事代金は合計金二九五万二九一〇円である。

また、本件建物の建築工事は、外観からすると、一応工事が終了しているようにみえるが、実際には、本件建物には、本訴甲事件請求原因3記載のような瑕疵があり、更に同4記載のような被告会社の債務不履行(不完全履行)があり、これらの不完全な工事を修補しない限り、本件建物は完成したとはいえない。

3 請求原因3の事実のうち、本工事代金の支払状況については認めるが、その余の事実は否認する。

第三  証拠〈略〉

理由

第一本訴甲事件請求に対する判断

一原告が、昭和六一年一〇月六日、被告会社との間で、原告を注文者、被告会社を請負人として、本件建物の建築工事に関する本件請負契約を締結したこと、被告会社が、昭和六二年三月二七日頃、本件建物を原告に引渡したことはいずれも当事者間に争いがない。

二本件建物の瑕疵について

1  瑕疵の判断基準

請負契約において請負人の瑕疵担保責任を基礎づける仕事の目的物の瑕疵とは、仕事の結果が請負人の保証した性質を有せず、通常もしくは当事者が契約によって期待していた一定の性状を完全には備えないことをいうものと解すべきである。そして、瑕疵であるか否か、欠陥が許容限度内のものであるかどうかは、契約当事者が取決め、期待したものが何であったかを設計図、仕様書、見積書等契約内容を明らかにする資料から確定する必要がある。しかし、建設請負契約は、極めて大雑把な契約文書しか備えず、また口頭によるものも少なくなく、契約当事者の意図の客観的な再現が極めて困難なものが多い。そうなると、結局工事目的物の性質・種類、契約締結時の事情、請負代金額、工事目的物についての法令制限、当事者の意図など諸般の事情を考慮してこれを決するほかはない。

2  そこで、右の判断基準に従って本件建物の瑕疵について判断する。

〈証拠略〉に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、かねて東京都中野区内のマンションに高齢の母及び長男、次男と共に居住し、特許事務所の事務員として勤務していたが、自宅を新築するために本件土地を購入した。

(二) 原告は、右自宅の新築に際して、家族四人が各自の部屋をもてること、母の外出等のために昭和六一年二月頃購入した本件乗用車(全長四六九〇粍・全幅一六九〇粍・全高一三八五粍)の車庫を設けるなどの希望条件があったので、本件土地購入の仲介をした不動産業者の秀光産業株式会社の社員長谷川肇にその旨相談したところ、同人の話では、原告の希望をかなえるとすれば、いずれにしても建ぺい率や容積率等の関係で建築基準法に違反する建物になるので、違反建築を承知で施工してくれる建築業者に依頼するしか方法はないということであった。

(三) そこで、原告は、昭和六一年八月一〇日頃、長谷川から被告会社の代表取締役である被告大谷を紹介され、その後同人と何回か会って本件建物の建築構想について相談を重ねた。

その結果、被告大谷の話でも、本件土地上に原告の希望にそう建物を建築するとすれば、建築基準法上の規制に反する建物とならざるをえないということで、原告もそのことは十分の承知のうえで、違反建築でもかまわないから是非建築してほしい旨同被告に依頼した。そこで、同被告もこれを承知し、結局坪単価五〇万円、建坪二四坪の代金合計一二〇〇万円で原告の自宅の新築を請負うことになり、両者は、昭和六一年一〇月六日、本件請負契約の契約書に調印するということになった。

しかし、駐車場の件については、右調印の当日になって、原告からその希望が出され(右契約書《甲第一号証の一》では、後記駐車場の工事代金四〇〇万円を加えた一六〇〇万円が本件請負契約の工事代金とされ、工事の見積書《甲第二号証》にも地下ガレージ工事の記載があり、右各文書の作成日付も同日となっているが、〈証拠略〉によれば、右各文書は作成日付を同日に遡らせて作成されたことが認められる。)、被告大谷としても、本件乗用車の車種・大きさ等は分っていたが、半地下式の車庫を造り、何回かきりかえしのハンドル操作をすれば、入出庫は可能であると判断し、原告に対し、その旨回答し、その場で両者の間に本件請負契約の代金額は駐車場の代金四〇〇万円を加え、合計一六〇〇万円とすることで合意された。

そのため、被告大谷は、急遽当日持参した本件建物の平面図を書換えることとし、数日後駐車場部分を書き加えた図面(甲第一号証の三)を原告に手渡した。

(四) その後敷地範囲の確定等に手間取って、着工が遅れたが、被告大谷は、建築基準法に適合するように内容虚偽の建築確認申請書を作成して提出し、昭和六一年一二月二四日建築確認を得て、翌昭和六二年一月に入って本件建物の工事に着工した。

因みに、右確認通知書(甲第七号証)では、本件建物の床面積は、一、二階とも22.68平方メートルとされているが、実際に建築された本件建物の床面積は、一階が32.57平方メートル、二階が35.98平方メートルであり、間取等その他の建築内容も右確認通知書の添付図面とは大幅に異なるものとなっており、同図面には地下駐車場の記載はない。

(五) 被告大谷は、本件建物の工事のうち、本件車庫の工事については、昭和六二年二月中旬頃から掘削工事を始め、同月下旬ないし同年三月初め頃、建築現場で原告との間において、現実に本件乗用車の入出庫ができるかどうかが問題となり、被告大谷は、ベニヤ板で本件乗用車の形を作りそれを動かして試してみて、本件乗用車の入出庫が可能であると判断し工事を続行し、同年四月初め頃ほぼこれを完成した。

(六) しかし、実際に出来上がった本件車庫は、本件乗用車の最低地上高から求めた必要勾配が一〇分の1.2であるのに対し、床部分の勾配が平均一〇分の3.3程度の急勾配になっており、入出庫に際して本件乗用車の車体底部が床を擦ることになり、また、本件建物の前面道路は幅員約2.7メートルの狭隘な道路(建築基準法四二条二項の道路)であり、同車両の最小回転半径部分の面積の関係で、その入出庫に際して右道路を挟んだ反対側前面隣地のブロック塀等に接触することになり、現実に本件乗用車が本件車庫に入出庫することは不可能である(被告大谷は、本件土地の敷地境のブロック塀を除去するなどして修補を試みたが奏効せず、昭和六二年八月六日頃、本件乗用車を本件車庫に入れようとしたが、車に傷をつけただけに終わった。本件車庫に本件乗用車の入出庫ができ難い事実自体は、被告らも自認している。)。

仮に、本件乗用車が入出庫可能な地下車庫を造り直すとすると、ダイニング・リビングルーム等本件建物の一階の相当部分を取壊して新たに大修繕をして設置しなければならず、この場合、工事に際して既存建物の構造体(柱・梁等)や仕上材(外壁・内壁等)に多大な影響を及ぼし、その防止費用等を含めると、建て替え以上の時間と費用を要する。

(七) 当初の約束では、本件車庫にはシャッターをつけないということであったが、昭和六三年四月上旬頃になって、原告から、被告会社に対し、不用心なのでシャッターを設置してほしいとの申入れがあった。そこで、被告会社としてはシャッターを設置すると暗くなり一階の採光が不良になるので、パイプシャッターの設置を勧めたが、原告は、それでは埃が入ってしまう、たとえ暗くなってもよいから普通のスチールシャッターにしてほしいと要請した。その結果、本件車庫のシャッターを締めると、一階の明りとりをふさいでしまうことになった(この事実自体は、被告らも自認している。)。

(八) 被告会社は、昭和六二年三月二七日頃、本件建物を原告に引渡し(この事実は前示のとおり当事者間に争いがない。)、原告は、昭和六二年四月二三日、本件建物について所有権保存登記をした。

(九) 昭和六二年四月中旬頃には残工事もすべて終わり、原告は、現在家族と一緒に本件建物に居住し、本件建物に近い駐車場を賃借してそこに本件乗用車を置いている。

なお、本訴の付調停中に本件乗用車より一回り小さい別の乗用車(コロナ)を使用して本件車庫の入出庫の実験がなされたが、辛うじて入出庫はできたものの、相当の運転技術を要するとともに、やはり車体の底部を一部擦る結果に終わった。

〈証拠略〉、右認定に反する部分は、前掲証拠と対比して俄かに措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、そもそも本件建物は違反建築であり、敷地面積や前面道路との関係で原告の期待するような車庫を建築することには相当な無理があったものと推認せざるをえないが、建築工事の専門家たる被告大谷は、そうした事情を十分知悉しながら、「本件乗用車が入出庫可能な車庫の施工」という工事内容を原告に対し保証し、結局それを実現できなかったのであるから、本件において設計図書等により本件建物の工事内容が必ずしも完全に明らかにしえないとしても、一階の採光不良の点も含めて、被告会社の実施した本件建物の工事は社会通念上最低限期待される性状を備えているものということはできず、この種契約に基づいてなされた工事としては受容されないもので瑕疵ある工事というべきである。

被告らは、仮に本件建物に原告主張の瑕疵があったとしても、それは発注者たる原告の指示に基づくものであり、被告会社が瑕疵担保責任を問われることはない(民法六三六条但書)旨主張する。

しかしながら、ここで発注者の指示とは、拘束力をもつものでなければならず、単に発注者が希望を述べ、請負人がこれに従ったというだけでは、指示によったということはできない。実際問題として、発注者の希望の表明と指示との限界は微妙な問題があり、単に発注者の言動だけでなく、当該工事の内容、当事者の当該問題についての知識、従来の関係、それに至る経過などを総合的に判断して、請負人を拘束するものであったかどうかを判断するほかない。

また、発注者が誤った指示をした場合であっても、請負人がそのことを知っているときは、それを発注者に知らせ、それを改める機会を与えるべきである。それをせず、漫然とその指示に従い瑕疵工事をした場合、請負人は瑕疵担保責任を免れない(民法六三六条)のであって、請負人が建築工事の専門家として少しの注意を払えば知りえたのに、重大な過失によって知らず、誤った指示により工事をした場合も同様というべきである。

これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、本件乗用車の入出庫が可能な本件車庫の設置について、原告が、被告会社に対し、相当強い希望を表明したことは十分に窺われるけれども、発注者がその住宅である工事目的物に重大な関心をもち、素人なりにこれに関与するのは通常であることを考えると、話合いの結果本件車庫の工事が行なわれたことだけから指図によって右工事が行なわれたとは認められないし、仮に原告の右希望の表明をもって発注者の指図とみるとしても、請負人の代表者たる被告大谷は、建築工事の専門家として本件乗用車及び前面道路の位置・形状等物理的客観的に当時判明していた諸事情から、より慎重に本件車庫の設置の可否及びその構造等を決すべき注意義務があったのであり、被告大谷はこれを怠り漫然と原告に右車庫の設置を安請け合いしたものと言われても致し方がなく、この点で同被告には重大な過失があったといわざるをえない。

したがって、以上に認定説示したところによれば、指図責任に関する被告らの前記主張は採用するに由ないものというべきである。

三債務不履行(不完全履行)について

1  建物全体の建築面積の不足について

本件建物全体の建築面積が本件請負契約上の建築面積に不足していることは当事者間に争いがない。

しかしながら、〈証拠略〉によれば、本件請負契約締結後杉並区との道路境界確定作業を実施したり、また隣家との境界確定作業を実施したところ、隣地境界線が必ずしも原告の当初の説明どおりではなかったことから、当初の契約上の建築面積を確保することが困難であることが明らかとなり、被告会社としては、原告の了解も得て各部屋の寸法を縮小して施工したことが認められる。

〈証拠略〉中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかして、一般にも机上において作成された図面等のとおりに全部建築工事が行なわれるのは稀で、工事の途中でその内容を変更することを避けられない場合を生じるのは顕著な事実であるから、単に実際に建築された本件建物の建築面積が当初の契約内容と違うということだけで、被告会社に帰責事由のある債務不履行(不完全履行)と認めることはできない。

2  設計図の不交付について

被告会社から原告に対し本件建物の設計図を交付していないことは当事者間に争いがない。

しかしながら、前記認定事実によれば、本件において契約当事者たる原告と被告会社は、建築基準法の定める最低基準を認識しながら、敢えてこれに反するような設計、工事を契約したものと認められ、その工事内容は、建築確認の基礎となった設計図、構造計算等とは無関係に、別に作成された図面等に基づいてなされたものであり、工事完成後の検査を経た形跡も認められない。

また、現実には全ての場合に必ずしも契約時に完全な設計図が完成しているわけではなく、特に小規模な建築工事では簡単な図面と見積書だけで契約と工事が行なわれる例も多いことは顕著な事実であると同時に、原告のいう設計図がどの程度の図面をいうのかもなお必ずしも判然とはしないけれども、いずれにしても本件請負契約上一定の図面の交付を被告会社に義務づけるような約定が合意されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

そうすると、原告主張の設計図の不交付をもって被告会社に帰責事由のある債務不履行(不完全履行)と認めることはできない。

四被告らの責任について

1  被告会社

(一) 契約解除と約款上の損害賠償責任

原告が、本件請負契約書添付の民間建設工事標準請負契約約款(甲)第二五条第二項二号及び四号に基づき、昭和六三年七月六日到達の書面で、被告会社に対し、本件請負契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

ところで、右約款同条一項は、「甲(注文者)は工事中必要によって契約を解除することができる。」と規定しており、同条二項各号所定の事由も、いずれも「工事中」に生じた事由をいうと解するのが相当であり、工事完成後は右各号による約定解除権の行使は許されないものというべきであるところ、後記反訴乙事件に対する判断の項において認定説示のとおり、本件建物の建築工事は既に完成しているものと認められる。

したがって、原告の契約解除と約款上の損害賠償責任の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(二) 瑕疵担保責任

前示のとおり、被告会社は、昭和六二年三月二七日頃、本件建物を原告に引渡したが、本件請負契約に基づく本件建物の施工に関して前記の瑕疵が存在するのであるから、被告会社は、原告に対し、民法六三四条二項による瑕疵担保責任として、瑕疵の修補に代る損害賠償をすべき責任がある。

(三) 債務不履行責任

原告は、選択的(択一的)主張ながら、被告会社に対し、民法四一五条に基づき債務不履行による損害賠償を求めている。

しかし、前記原告主張の債務不履行(不完全履行)が認められないことは前叙のとおりであり、本件建物の前記瑕疵の点についても、請負工事の瑕疵による請負人の責任については、不完全履行の一般理論は排斥されると解すべきである。けだし、請負工事の瑕疵による請負人の責任については民法六三四条以下に詳細な規定があり、これらは不完全履行に関する一般理論の特別規定とみるのが相当であるからである。

(四) 不法行為責任

(1) 被告会社が土木建築の請負等を業とする有限会社であり、被告大谷がその代表取締役で、本件建物の建築工事の施工を担当したことは、弁論の全趣旨により明らかである。

(2) 前示のとおり、本件建物には本件車庫に本件乗用車を入出庫させることが不可能であるという瑕疵と同時に一階の採光が不良であるという瑕疵があり、これらは、被告大谷が建築工事の専門家としての注意義務に違反して施工した杜撰な工事に起因するものといわざるをえない。

(3) よって、被告大谷には、本件建物の瑕疵について少なくとも重大な過失があるものといわざるをえず、被告会社も、民法四四条一項に基づき不法行為責任を負い、原告の蒙った損害を賠償すべき責任がある。

(五) 以上によれば、被告会社は、請負人の瑕疵担保責任又は法人の不法行為責任のいずれかにより、原告に対し、本件建物の瑕疵によって原告が蒙った損害について賠償責任を負うものである。

2  被告大谷

前掲甲第一号証の一(本件請負契約書)の保証人または完成保証人欄には被告大谷の代表取締役の肩書を付した記名捺印がなされている。

右事実からすると、被告大谷は、被告会社の本件請負契約上の債務を保証したものと推認される。

被告本人兼被告会社代表者本人大谷信義は右記名捺印の趣旨について、被告会社の代表者として保証したものであるなどと趣旨判然としない供述をするが、右供述は、この認定を左右するに足りない。

また、被告大谷には、前示のとおり、本件建物の瑕疵について少なくとも重大な過失があるものというべきであるから、有限会社法三〇条の三に基づき原告の蒙った損害を賠償すべきである。

以上によれば、被告大谷は、保証責任又は取締役の第三者に対する責任のいずれかに基づき、被告会社と連帯して原告が本件建物の瑕疵によって蒙った損害を賠償すべき責任がある。

五原告の損害について

1 本件建物の前記瑕疵のうち、本件車庫の瑕疵は、これを瑕疵のない完全なものとするためには、前記認定説示のとおり、新しく建て替えるか、又はこれに匹敵する大修繕を必要とするのであるから、社会通念上は、右瑕疵の修補は不能というべきである。

そして、以上のことからすると、本件建物の瑕疵は、全体として修補不能とみるべきであるから、以下その前提で原告の損害額を検討するのが相当である。

2  原告は、本件乗用車が入出庫可能な車庫を造るためには、一旦本件建物全体を取壊し、新規に建物を建て替えるしか修補方法はないとして、その場合新規に本件建物とほぼ同じ床面積・構造・仕様・品質の建物を建てるための、本件建物の取壊(撤去を含む。)工事費及び新規工事建築費等の損害賠償を請求している。

しかしながら、当裁判所は、原告の右主張のうち、建て替え費用は勿論建て替えを前提とする諸費用についても本件建物の瑕疵により原告の蒙った損害であるという部分は、到底採用しえないものであると考える。その理由は次のとおりである。

(一)  原告は、本件建物の瑕疵の修補が物理的に不可能ではないことを前提に、その修補に要する費用(建て替え費用)等相当額を損害として主張しているものと解されるが、本件建物の瑕疵は、前示のとおり社会通念上修補不能であり、本件は、そもそも瑕疵修補の請求はできない事案である。

(二)  瑕疵修補の請求ができない場合に、注文者が請負人に対して請求しうる損害賠償の額は、一般的に言って、瑕疵を修補するために要する費用ということはできない。このことは、民法六三四条一項但書の趣旨からも明らかである。

(三)  民法六三五条但書により、建物やその他の土地の工作物については、契約の目的を達することができない瑕疵があっても、請負契約を解除することはできず、右規定は強行規定と解されているのに、建て替え費用等を損害と認めることは、実質的に契約解除以上の効果を認める結果になる。

(四)  瑕疵修補の請求ができない場合の損害賠償の額は、目的物に瑕疵があるためにその物の客観的な価値が減少したことによる損害を基準にして、これを定めるのが相当である。何故なら、右の考え方は財産上の損害のとらえ方について、請負人の担保責任、売主の瑕疵担保責任及び物の毀損による不法行為責任の全てに共通した理解を可能にするからである。

以上によれば、本件建物の瑕疵により原告の蒙った財産上の損害は、瑕疵があるために本件建物の客観的な交換価値が減少したことによる損害と解すべきであるから、原告主張の損害のうち、本件建物の建て替え費用及び建て替えを前提とする諸費用の損害賠償請求は全て理由がなく、失当といわざるをえない。

原告は、本件建物の瑕疵により原告の蒙った損害として、瑕疵があるために本件建物の客観的な交換価値が減少した事実を明示的に主張するものではないが、原告の主張中にこれが黙示的に含まれるものと善解しても、原告は、建て替え費用及び建て替えを前提とする諸費用の損害賠償請求に固執する余り、右瑕疵による本件建物の価値の減少額について鑑定等による立証を何らしようとせず、結局、本件において右価値の減少部分を認めるに足る証拠は皆無なのである。

3  慰藉料

原告本人尋問の結果によれば、原告は、念願の自宅を新築したものの、本件乗用車の本件車庫への入出庫が不可能であることが判明し、大きな精神的打撃を受けたことが認められる。そして、本件建物の瑕疵の内容・程度その他一切の事情を総合し、とりわけ本件建物の瑕疵は重大であるのに、原告の主張立証のまずさから瑕疵の修補に代る損害賠償が認容されなかった事情があるので、この回復されない損害をも考慮して、慰藉料の額は九〇万円をもって相当と認める。

六瑕疵担保期間について

被告らは、本件請負契約書添付の民間建設工事標準請負契約約款(甲)第二〇条によれば、瑕疵担保責任の追求は、建物の引渡時点から一年内になされなければならない旨規定されているところ、本件で被告会社は昭和六二年三月下旬に原告に建物完成引渡証明書を交付し、原告もその頃本件建物に引越しており、その時点で本件建物の引渡は完了しているので、本件で原告が被告会社に対し瑕疵担保責任を追求することは許されない旨主張する。

しかしながら、原告が本件車庫の引渡後終始一貫して被告会社に対しその修補請求をしていることは弁論の全趣旨に徴して明らかであり、また、被告大谷が、本件土地の敷地境のブロック塀を除去するなどして修補を試みたが奏効しなかったことは前記認定説示のとおりであって、一般に請負の仕事の目的物に瑕疵があり、これについてその引渡のときから一年(除斥期間)以内に注文者から修補請求がなされ、その一年が経過したときには、その段階で修補請求にかかる瑕疵の内容は特定され、その有無の判定及び法律関係の確定も可能となるから、右修補を求められた瑕疵より生ずる債権については、もはや除斥期間の規定を適用する余地はないというべきである。したがって、その請求に基づく修補の工事が一応はなされたが、それが実効をあげず、当初の瑕疵がなお除去されていないような場合、その不十分の修補工事の終了ないしはその目的物の引渡(再度の引渡)のときから改めて右除斥期間が進行すると解するのは相当ではなく、すでに有効に行使された右修補請求権は一般の債権と等しくその目的達成までまたはその消滅時効が完成するまで存続すると解するのが相当であり、なお右のように修補請求に応じてなされた修補工事が実効をあげず、しかもその間に最初の引渡のときから一年の除斥期間が経過したような場合、注文者による担保責任の追求手段を当初選択した修補請求のみに限定すると、請負人の責に帰すべき事由によって他の追求手段を奪われる結果を生じ、衡平に反するから、右一年経過後でも、注文者は、右修補請求に代替する請求権すなわち残存する瑕疵の修補に代る損害賠償請求債権はもとより、修補に付随して発生する請求権すなわち右修補工事に要した期間やその工事内容の如何によって損害発生の有無、程度が左右されるところの右修補とともにする損害賠償請求債権の各行使も妨げられないと解するのが相当である。

したがって、被告らの瑕疵担保期間に関する前記主張は採用することができない。

七まとめ

以上の理由により、原告の本訴甲事件請求は、被告らに対し、連帯して慰藉料九〇万円及びこれに対する同事件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六三年一〇月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がない。

第二反訴乙事件請求に対する判断

一原告が、昭和六一年一〇月六日、被告会社との間で、原告を注文者、被告会社を請負人として、本件建物の建築工事に関する本件請負契約を締結したことは当事者間に争いがない。

二1  本件建物建築工事の完成について

被告会社が、遅くとも昭和六二年四月中旬頃までに本件建物の建築工事を完成した旨主張するのに対し、原告は、右工事はまだ未完成であるとしてこれを争うので、以下この点について判断する。

思うに、請負契約の仕事の完成とは、いかなる程度をいうのか、ことに工事の瑕疵との区別について見解が岐れるところではあるが、当裁判所は、建築請負契約の場合、専ら請負工事が当初予定された最終の工程まで一応終了し、建築された建物が社会通念上建物として完成されているかどうか、主要構造部分が約定どおり施工されているかどうかを基準に判断すべきものと解する。

これを本件についてみるに、前示のとおり本件建物の建築工事は最終の工程が終了し、建物として使用し得る段階に達し、独立の不動産(建物)として登記能力を具え、現実にも既に保存登記され、原告もすでに引渡を受けてこれに入居して使用しているのであるから、契約の重要部分が社会通念上約旨に従って履行されているものと考えられ、建物として完成し、原告に引渡されたものと解するのが相当である(もっとも、目的物の瑕疵が極めて重大であって、いちおう外形的には完成したが、主幹部分に重大な欠陥があり、現状では建物としての使用に堪えないなど、ほんらいの効用を有せず、注文者が目的物を受領しても何らの利益を得ない場合は、仕事が完成していない場合に準じて考える余地もないではないが、本件においてそのように認めるに足りる証拠もない。)。

すると、本件建物が完成していないことを理由にしては、原告は、被告会社に対し、請負代金の支払を拒むことはできないというべきである。

2  追加工事の発注の有無について

原告が、昭和六一年一二月一五日、被告会社との間において、ベランダ、車庫のシャッター、エアコン四基、塀及び門扉について追加工事(工事代金二九五万二九一〇円)の請負契約を締結したことは原告もこれを自認している。

被告らは、被告会社が、右原告の自認部分を超えて反訴乙事件請求原因2記載のとおり、合計で四七一万九〇〇〇円の追加工事の請負契約が成立した旨主張し、被告本人兼被告会社代表者本人大谷信義は、これに副う供述をするけれども、右供述は俄かに措信できず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって、被告ら主張の追加工事代金については、原告の自認分二九五万二九一〇円の限度でしか認めることはできない。

三残工事代金について

原告が、被告会社に対し、本件請負契約の本工事代金一六〇〇万円のうち、昭和六一年一〇月八日に八〇〇万円、昭和六二年一月二六日頃に四〇〇万円、同年三月末日頃に二〇〇万円の合計一四〇〇万円を支払ったことは原告もこれを争わない。

そうすると、本件請負契約における残工事代金は、本工事代金の残り二〇〇万円に前記追加工事代金二九五万二九一〇円を加えた四九五万二九一〇円となる。

また、前示のとおり、原告は、昭和六二年三月二七日頃には本件建物の引渡を受け、また本件建物の完成は遅くとも同年四月中旬頃で、原告は、同月二三日、本件建物について所有権保存登記もしているのであるから、右残工事代金の弁済期は、遅くとも同月末日までには到来したものとみるべきである。

四まとめ

以上の理由により、被告会社の反訴乙事件請求は、原告に対し、残工事代金四九五万二九一〇円及びこれに対する履行期後である昭和六二年五月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は、理由がないというべきである。

第三結語

以上の次第で、原告の本訴甲事件請求及び被告会社の反訴乙事件請求では、それぞれ前示の各限度で理由があるから認容し、その余の各請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行宣言の申立については、いずれの事件についても相当でないからこれらを却下して、主文のとおり判決する。

(裁判官小澤一郎)

別紙物件目録〈省略〉

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